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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)74号 判決 2000年5月25日

亡榎本重幸訴訟承継人

原告

榎本喜代子

亡榎本重幸訴訟承継人

原告

榎本義剛

亡榎本重幸訴訟承継人

原告

小川雪子

亡榎本重幸訴訟承継人

原告

榎本敬

亡榎本重幸訴訟承継人

原告

飯草光代

右五名訴訟代理人弁護士

佐藤勝

廣澤幹久

右五名訴訟復代理人弁護士

大武正史

被告

町田税務署長 名取利康

右指定代理人

戸谷博子

須藤哲右

渡邉芳雄

杦田喜逸

吉野隆司

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

亡榎本重幸の平成四年分の所得税の更正の請求に対して、被告が平成六年六月三〇日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分(異議決定により一部取り消された後のもの)のうち、納付すべき税額八六八四万六七〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

亡榎本重幸(以下「亡重幸」という。)は、平成四年中に同人所有の七筆の土地を売却し、その譲渡に係る譲渡所得を含め平成四年分の所得税の確定申告、修正申告をした後、右譲渡所得の計算については所得税法六四条二項(以下「本件特例」という。)の適用があるとし、確定申告にはこれを適用せずに所得金額及び納付すべき税額を計算した誤りがあると主張して更正の請求をしたところ、被告はこれに対し更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。本件は、亡重幸の承継人である原告らが右処分を違法として右通知処分(異議決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めているものである。

一  前提事実(証拠を記載した事実以外の事実は争いがない。)

1  亡重幸は、平成四年三月一七日、同人が所有する町田市真光寺町字六号四三四番一の土地ほか七筆の合計六七三〇平方メートル(以下「本件土地」という。)を三井不動産株式会社(以下「三井不動産」という。)に代金七億五〇四〇万五〇九五円で売り渡した(弁論の全趣旨)。

2  亡重幸は、被告に対し、法定申告期限までに、総所得金額をマイナス二二〇二万六二二五円、分離長期譲渡所得の金額を七億一一六八万四八四一円、納付すべき税額を一億〇三一二万二七〇〇円とする確定申告をし、その後平成五年四月三〇日、総所得金額を右と同額、分離長期譲渡所得金額を六億九八八三万二九八九円、納付すべき税額を一億九九五三万四八〇〇円とする修正申告をした。亡重幸は、平成五年一〇月二二日、被告に対し、本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算については本件特例の適用があるところ、同人がした修正申告に係る分離長期譲渡所得金額は本件特例を適用しないで計算されているため誤りがあるとし、総所得金額を右と同額、分離長期譲渡所得金額を二億二八八三万二九八九円、納付すべき税額を六〇八二万六一〇〇円とするよう求めて更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした(甲三五、弁論の全趣旨)。

3  被告は、本件更正請求に対し、平成六年六月三〇日付けで、更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件処分」という。)をした。

4  亡重幸は、本件処分を不服として、被告に異議を申し立てたが、被告は、平成六年一一月二八日付けで、原告の修正申告には税額の計算に誤りがあるとし、納付すべき税額を一億九八九九万四二〇〇円に減額したが、その余の異議申立ては理由がないとしてこれを棄却する旨の決定をした。亡重幸は、これを不服として、同年一二月二六日、国税不服審判所長に対し審査請求を行ったところ、同所長は、平成八年一二月二〇日付けで右審査請求は理由がないとしてこれを棄却する旨の裁決をした。

二  本件の争点

本件の争点は、本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例の適用があるか否かであり、この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

(原告らの主張)

1 株式会社メモリアルジャパン(以下「メモリアルジャパン」という。)は、平成三年八月三〇日、株式会社不動産相互センター(以下「不動産相互センター」という。)との間で借入金額を三億円とする金銭消費貸借契約を締結し、その際、亡重幸及び原告義剛(以下「亡重幸ら」という。)は不動産相互センターとの間で、メモリアルジャパンの右債務につき連帯保証する旨の契約を締結するとともに、併せて亡重幸ら所有の土地を担保提供することを約した。そして、同日、不動産相互センターからメモリアルジャパンに対し右三億円の一部として一億円の融資が実行された。

また、メモリアルジャパンは、同年一〇月一日、株式会社宮城産商(以下「宮城産商」という。)との間で借入金額を五億五〇〇〇万円とする金銭消費貸借契約を締結し、その際、亡重幸らは、宮城産商との間で右債務につき連帯保証する旨の契約を締結し、併せて亡重幸ら所有の土地を担保提供することを約した。そして、同月二五日、亡重幸らは宮城産商との間で亡重幸ら所有の一四筆の土地(以下「榎本所有土地」という。)を担保提供する旨の担保提供約定書を作成し、宮城産商からメモリアルジャパンに対し右五億五〇〇〇万円の一部として三億円(現金五〇〇〇万円、手形二億五〇〇〇万円)の融資が実行された。

なお、同年一一月一九日、亡重幸らは、自宅で、宮城産商の依頼を受けた鈴木福壽司法書士に、右担保の設定のための関係書類を交付した。

2 亡重幸らは、平成三年一一月二二日付けで、不動産相互センター及び宮城産商に対し、担保設定の意思のないことを通知したところ、右債権者らは、メモリアルジャパン及び亡重幸らに対し、右借入金を直ちに返済するよう迫った。そこで、亡重幸らは、右債権者らと交渉し、亡重幸が連帯保証人として不動産相互センターに対し八〇〇〇万円、宮城産商に対し三億円を返済し、その代わりに右債権者らは亡重幸らに対し同人が右債権者らに手渡していた契約書及び担保設定に必用な書類一式を返還する旨の合意をし、亡重幸は、親族及びその経営する会社から返済資金の融資を受け、右合意に基づいて、同年一二月一三日、不動産相互センターに八〇〇〇万円、宮城産商に三億円を返済した。

3 亡重幸は、右弁済のための借入金の返済のため、平成四年三月二七日、本件土地を三井不動産に対し七億五〇四〇万五〇九五円で売り渡した。

4 亡重幸は、前記2記載のとおり連帯保証債務を履行したことに伴い、主債務者であるメモリアルジャパンに対し右返済額相当の求償権を取得したところ、同会社は平成四年一二月一〇日までにこれを支払う旨約束していた。しかし、メモリアルジャパンは右弁済期を経過してもその支払をせず、資産状況が極めて悪いことが判明したので、亡重幸は同会社につき破産の申立てをし、同会社は平成五年八月二四日、破産宣告を受けた。しかして、メモリアルジャパンにはみるべき資産もないため、右求償権は全額回収不能の状態となった。

5 したがって、本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例が適用されるべきである。

(被告の主張)

1 本件特例の趣旨は、保証人が、たとえ将来保証債務を履行することになったとしても、求償権を行使することによって最終的な経済的な負担は免れ得るとの予期のもとに保証契約を締結したにもかかわらず、一方では、保証債務の履行を余儀なくされたため資産を譲渡し、他方では、求償権行使の相手方の無資力その他の理由により、予期に反してこれを行使することができないというような事態に立ち至った場合に、その資産の譲渡に係る所得に対する課税を求償権が行使できなくなった限度で差し控えようとするものである。

2 本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例の適用があるといえるためには、<1>亡重幸の債権者に対する保証債務が存在し、<2>保証債務の履行を余儀なくされたため資産の譲渡が行われ、<3>資産の譲渡による収入と保証債務の履行との間に、資産の譲渡による収入が保証債務の履行に充てられたとの因果関係が認められ、<4>保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部の行使ができなくなったことの各要件が満たされなければならない。

3 この点に関し、原告らは、亡重幸がメモリアルジャパンの不動産相互センター及び宮城産商に対する借入金債務につき連帯保証し、連帯保証債務の履行として右債権者らに合計三億八〇〇〇万円を支払ったというのであるが、亡重幸がメモリアルジャパンの右借入金債務につき連帯保証したことについては立証がないし、他にも本件土地の譲渡が右の要件を満たしていることについての主張、立証はない。かえって、本件に現れた証拠からすれば、亡重幸が右債権者らに対する債務について連帯保証をした事実はなく、原告ら主張のとおり、亡重幸が合計三億八〇〇〇万円を出捐したものとしても、それは、原告義剛がメモリアルジャパンの代表取締役である大澤浄(以下「大澤」という。)の資金調達に協力することを約し、大澤から紹介された佐々木に亡重幸ら所有の土地の権利証等を渡してしまった後、これを翻意し、権利証等の返還を得るために、佐々木らから要求された合計三億八〇〇〇万円を支払わざるを得なくなったことによるものであって、右出捐が保証債務の履行としてされたものでないことは明らかというべきである。

4 したがって、本件譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例の適用はないというべきである。

第三争点に関する当裁判所の判断

一  本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例の適用があるといえるためには、<1>亡重幸の債権者に対する保証債務が存在し、<2>右保証債務を履行するため本件土地の譲渡が行われ、<3>右保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部の行使ができなくなったことの各要件が満たされなければならない。

そこで、まず右<1>の要件が存在するかどうかについて検討するに、証拠(甲一ないし五、六ないし九の各1、2、一一ないし一九、二八ないし三〇、三六の1、2、三七、三九、四〇ないし四二、乙一の1ないし14、二、三、証人佐々木勲、同玉浦庄太郎、同榎本美恵子(第一、二回)、原告義剛本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  亡重幸の長男である原告義剛は、株式会社町田中央建設の営業課長であったが、平成三年七月二〇日ころ、かっての仕事上の同僚であった内田正美から、ビルの建築主ということでメモリアルジャパンの代表取締役である大澤を紹介された。

大澤の話によると、メモリアルジャパンは、町田市原田町六丁目一六番地の土地上に本社ビルの建築を計画し、他に伊東に所在するシルバーマンション六階建ての改修工事等を行うことも予定しているとのことであった。原告義剛は、大澤から建築予定地等に案内されるなどし、本社ビルの建築工事を受注したいと積極的に営業活動をした。そして、平成三年八月一一日ころ、ようやく大澤から本店建築計画のプランを示され、工事の概算見積書を提出するところまで漕ぎ着けた。

2  右のような経過の中で、大澤から原告義剛に対し、ビルの建築費やその他の事業資金の資金繰りについて担保提供をして協力してほしいとの話が出た。そして、大澤は、原告義剛に対し、毎月五〇万円の謝礼を出すから、榎本所有土地をメモリアルジャパンの資金調達をするため担保として利用させてほしい旨の依頼を受け、原告義剛はこれを承諾し、亡重幸に話してその了解をとった。なお、資金の調達先は、大澤の方で探してくるということであった。

3  亡重幸らは、右資金調達する上で必要であるとして、金銭消費貸借契約書の用紙一通、金銭消費貸借契約書及び根抵当権設定証書の用紙一通を渡され、その各連帯保証人欄に署名押印するよう依頼されたので、そのとおり署名押印し、これに印鑑証明書を付けて大澤に交付した。

右金銭消費貸借契約書の一通(甲一)には借入金額が三億円と記載され、債務者としてメモリアルジャパンの代表者の署名押印、連帯保証人として亡重幸及び原告義剛の署名押印がされているが、債権者の記載はなく、返済期限や利率の記載欄は空欄のままとなっている。また、他の一通(甲二)には借入金額が五億五〇〇〇万円と記載され、債務者としてメモリアルジャパンの代表者の署名押印、連帯保証人として亡重幸及び原告義剛の署名押印がなされているが、債権者の記載はなく、返済期限や利率の記載欄は空欄のままとなっている。その後、右各金銭消費貸借契約書等は、大澤により、前者については不動産相互センターに、後者については宮城産商にそれぞれ差し入れられた。

4  平成三年八月三〇日ころ、亡重幸らは、大澤に連れられて不動産相互センターに赴き、同社の担当者から榎本所有土地を担保に提供する意思の有無を確認され、亡重幸らはその意思があることを表明した。

5  平成三年一〇月一日ころ、亡重幸らは、大澤に連れられて宮城産商の代表取締役である佐々木方に赴き、同人から榎本所有土地を担保に提供する意思の有無を確認され、亡重幸らはその意思があることを表明した。

同月二五日ころ、宮城産商と亡重幸らとは、<1>亡重幸らは宮城産商に榎本所有土地を担保提供する、<2>宮城産商は担保提供された榎本所有土地をノンバンクに持ち込み資金調達をする、ただし、借入限度額は五億五〇〇〇万円とし、期間は二年間とする、<3>亡重幸らと宮城産商とは双方の信義に基づき本約定の推進を計ることとする、などを内容とする担保提供約定をなし、同日付けでその旨の担保提供約定書(甲三)を作成した。また、同じ日、大澤及び亡重幸らが約束手形七通額面合計二億五〇〇〇万円及び現金五〇〇〇万円を受領した旨の内容の同日付けの受取書(甲四)が作成された。

もっとも、右手形七通のうち二通はいずれも取立てに回された事実がなく、他の五通はいずれも取立てに出されたが、四通は債務不履行を理由に支払拒否がされており、また一通は第一裏書人の返却依頼により返却され交換されていない。

6  原告義剛は、平成三年一一月一九日ころ、亡重幸らが担保提供することを約した榎本所有土地に抵当権を設定するに必要なその権利証、委任状等の関係書類を鈴木司法書士を介して佐々木に交付した。

7  原告義剛の妻である榎本美恵子(以下「美恵子」という。)は、その後、榎本所有土地の権利証等を佐々木に渡してしまったことを知り、榎本所有土地を他人の資金調達のため担保に提供することに強く反対し、亡重幸らに対し、抵当権が設定される前に右権利証等を取り戻すべきだといさめ、そのためのどのような方策があるかを弁護士玉浦庄太郎(以下「玉浦弁護士」という。)に相談した。

亡重幸らは、玉浦弁護士のアドバイスにより、平成三年一一月二一日付けで、不動産相互センター及び宮城産商らに対し内容証明郵便で、司法書士鈴木に委任した件及び宮城産商に対する担保提供の件を撤回すること等を内容とする通知書(甲六ないし九の各1、2)を出した。

8  美恵子は、玉浦弁護士のアドバイスを受けながら、佐々木との間で榎本所有土地の権利証等の返還を求めて交渉したところ、佐々木から、宮城産商及び不動産相互センターは榎本所有土地を担保にしてノンバンクから融資を受けメモリアルジャパンに資金を得させることを前提に、つなぎとしてメモリアルジャパンに対し既に四億円(融通手形を含む。)の融資を行っており、したがって、右権利証等を返還するには、引き換えに三億八〇〇〇万円の支払いを受ける必要があるとの条件が示された。

亡重幸ら及び美恵子は右の条件を受け入れることとし、亡重幸がその親族ないしその経営する会社から資金を借り入れて、宮城産商らに対し合計三億八〇〇〇万円を支払い、それと引き換えに右権利証等の返還を受けた。

9  亡重幸は、玉浦弁護士の指示により、右権利証等の返還を受けるに要した三億八〇〇〇万円をメモリアルジャパンから返済してもらうため、<1>メモリアルジャパンは亡重幸に対し、平成三年一二月一三日現在、平成三年一一月二八日宮城産商に弁済するため借り受けた六〇〇〇万円の債務を負担していることを確認する、<2>亡重幸はメモリアルジャパンに対し、同年一二月一三日三億二〇〇〇万円を貸し渡し、メモリアルジャパンはこれを受け取り借用した、<3>亡重幸とメモリアルジャパンは同日右合計三億八〇〇〇万円の債務を同額の消費貸借の目的とすることを合意した、<4>メモリアルジャパンは宮城産商に三億円を、不動産相互センターに八〇〇〇万円をそれぞれ弁済し、亡重幸らに対する一切の免責を得させる、<5>メモリアルジャパンは右元金及びこれに対する年一二パーセントの割合による利息を一括して平成四年一二月一〇日限り支払うなどを内容とする準消費貸借契約を締結し、その旨の準消費貸借公正証書(甲三〇)を作成した。

二1  右認定の事実によれば、亡重幸らは、メモリアルジャパンの資金調達のため榎本所有土地を担保として提供することを承諾し、メモリアルジャパンが宮城産商ないし不動産相互センターを介してノンバンク等から資金を調達するということから、ノンバンク等に差し入れるため前記各金銭消費貸借契約書等を作成し、宮城産商に榎本所有土地に抵当権を設定するため必要な権利証等を交付したが、その後、原告義剛の妻美恵子からいさめられて右担保提供をするのを翻意し、宮城産商に対し権利証等の関係書類の返還を求めたこと、その際、不動産相互センター及び宮城産商から、メモリアルジャパンに対してはノンバンクから融資を受けるまでのつなぎとして現金ないし手形を融通しているので権利証等の関係書類を返還するためにはこれらを返済してもらう必要があると言われ、そこで、亡重幸らは、宮城産商の代表者である佐々木らと交渉し、亡重幸が合計三億八〇〇〇万円を支払い、それと引き換えに宮城産商が権利証等の関係書類を返還するとの合意がされ、亡重幸は親族ないしその経営する会社からその資金を借り受けて宮城産商に同額を支払い、権利証等の関係書類の返還を受けたことが認められる。そして、右の担保提供の過程で、メモリアルジャパンが宮城産商等を介してノンバンクからの資金調達を得るに先だって不動産相互センター及び宮城産商からつなぎ資金(融通手形を含む。)を借り入れるにつき、亡重幸らが不動産相互センターないし宮城産商との間で保証契約を締結した事実はうかがわれない。

2  原告らは、メモリアルジャパンは、不動産相互センターとの間で金銭消費貸借を締結し一億円を借り入れ、その際、亡重幸は不動産相互センターとの間で、メモリアルジャパンの右債務につき連帯保証する旨の契約を締結した旨、また、メモリアルジャパンは、宮城産商との間で金銭消費貸借を締結し三億円を借り入れ、亡重幸は、宮城産商との間で右債務につき連帯保証する旨の契約を締結した旨主張し、甲一及び二(金銭消費貸借契約書等)を右事実を裏付ける証拠として提出しており、また、原告義剛、証人榎本美恵子の供述、甲三一の上申書、甲三七、四六の陳述書には右主張に沿う部分がある。

しかしながら、保証契約を締結する場合には、誰と保証契約を締結するのか、保証契約の内容がどのようなものであるかが契約書上明らかにされているのが当然であるし、当初債権者、借入金額が確定していなくても、それが確定した段階でこれを明らかにした書面が作成されてしかるべきであると考えられるところ、前記1に認定したとおり、右各金銭消費貸借契約書等には、いずれも借入金額が記載され、債務者及び連帯債務者の署名押印がされているだけで、債権者、返済期限、利率が記載されておらず、しかも、原告らにおいてメモリアルジャパンが不動産相互センター及び宮城産商から融資を受けたと主張している各金額と右各契約書記載の借入金額とは一致していない。加えて、亡重幸らは、宮城産商で担保提供の意思の有無を確認されたというが、亡重幸が宮城産商との間で交わした担保提供約定書によれば、宮城産商が榎本所有土地をノンバンクに持込んで資金調達するものと記載されており、宮城産商ないし不動産相互センターのメモリアルジャパンに対する債権を担保するため榎本所有土地に担保権を設定するものとはされていない。また、抵当権等の担保権の設定が約された以上、融資を実行する時点で担保権が設定されるか、少なくとも担保権設定に必要な権利証、委任状等の書類が債権者に交付されるのが通常であると考えられるところ、本件では、融資が実行された時点で担保権が設定され、あるいは担保権設定に必要な権利証等の書類の交付がされた形跡はなく、そもそも、不動産相互センターないし宮城産商からメモリアルジャパンに対し融資が実際に実行されたことを裏付ける客観的な証拠はなく、その点にも疑いが残るところである。さらに、亡重幸らが不動産相互センター及び宮城産商にあてて出した内容証明郵便には、担保提供を撤回するとは記載されているものの、連帯保証を撤回するとの記載はなく、このことは、亡重幸らが不動産相互センターないし宮城産商との間で保証契約を締結したとの認識を有していなかったことをうかがわせるものである。

しかして、これらの点を総合してみれば、甲一、二は、亡重幸と不動産相互センターないし宮城産商との間に連帯保証契約が締結されたことを証するに足りないというべきであり、また、証人榎本美恵子及び原告義剛本人の供述、甲三一の上申書、甲三七、四六の陳述書のうち原告主張に沿う部分は、いずれもたやすく信用することができないといわなければならない。

他に前記1の認定を覆し、原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

三  したがって、本件土地の譲渡は本件特例を適用する要件を満たさないものであるから、その譲渡所得の計算上本件特例の適用はないというべきである。

第四結論

以上の次第で、原告らの本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤聡 裁判長裁判官青栁馨は転補のため、裁判官谷口豊は差支えのためいずれも署名押印することができない。裁判官 加藤聡)

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